ヨーロピアンはラテンを夢見る。1

Bossa Nova / Nico Gomez & His Orchestra」

子供の頃、親父のデカいステレオ・セットの下にある、レコード・ラックには、ジャズやフュージョンのレコードに混じって、ポール・モーリエやニニ・ロッソなどといったいわゆる「イージーリスニング」のレコードもたくさんあった。

 レコードの帯には、「魅惑のトランペット・サウンドとか「夜のカクテル・ミュージック」などといかがわしい文句が並び、ジャケットにはおしなべて肌もあらわな金髪のおねえさん。半ズボンの私はそれらを盗み見ては、「これは、エロいな」とか、「もうちょっとで見えそうだな」とか思ったりしていた。そしてソファに横になって目を閉じてレコードを聴いている親父を見て、「早く大人になりたいな」と思った。

 時は経ち、「イージーリスニング」というジャンルはいつしか、「カフェ・ミュージック」や「ラウンジ・ミュージック」といった言葉にとってかわり、入手しにくいレア・グルーヴと呼ばれる音源は、クラブDJたちの垂涎の的となった。そういった「レア・グルーヴ」、なかでもラテン系のそれは、噂だけが一人歩きしいざ聴いてみると、首を傾げたくなる代物も多かった。聴くに堪えない「レア・グルーヴ」モノをどれだけ聴いたかわからない。


 しかし、かつて「Sound Of Samba」として日本でも発売された、ニコ・ゴメスの「ボサ・ノヴァ」は少し趣きが違う。ニコ・ゴメスという思わせぶりなラテン系の名前ながら、ベルギー人らしいというパーソナル以外はこれといった情報があまり知られていない、このヨーロッパ人が遺した本作は、全編が「ラテン・ミュージック」の楽しさと妖しさに溢れている。名曲と噂され、まさしく「レア・チューン」として知られる「Rio」のピアノの美しいイントロと、女性コーラスは、かつての「イージーリスニング」のいかがわしさと共に、「ソフィスティケイト」されたヨーロッパ産のラテン・ミュージックを主張している。

 ジャケットも、あの頃見たような、かわいい「エロ」加減。ラテンを夢見たニコ・ゴメスが、フェイクを演じながらたどり着いた「最上のラテン」の香りが、確かに漂っている。        (この項つづく)


ボサノヴァ

ボサノヴァ