うたあしぃび。

『うたあしぃび/朝崎郁恵
 
 
 私は両親ともに奄美大島出身で、小学生の頃から奄美で育った。

 小さい頃、とっぷりと日が暮れるまで遊んで、弟の手を引いて家路につく頃、家々から三味線と”島唄”を歌う声が聞こえてきた。

 それぞれの集落(シマ)で口伝えによって伝承されてきた「島唄」は、歌詞の内容や節回しも、集落によって全く違い、現在も人々の生活に根ざしている。

 恥ずかしながら朝崎郁恵さんのことは、ついこの4,5年前まであまり知らなかった。島で生活している頃は、「島唄」があまりに身近すぎて、「アーティスト」といった捉え方が出来なかったのかも知れない。

 細野晴臣J-WAVEで紹介したことから一気にその名を知られ、クローズアップされたと聞いた。元ちとせなどの活躍以前から注目され始めたいわゆる「奄美・沖縄のうた」に、いささか怪訝な感じがしながらも、このアルバムを聴いた。

 今まで聞いたことの無い唯一無二の「声」。幼女のような印象もありながら、何かを「諭す」母のような「声」。しかしそれはまぎれもなく自分がかつての生活の中で体験した、「島唄」そのものだった。

 「うたあしぃび」とは歌を掛け合い遊ぶ「歌遊び」のこと。その歌遊びで歌われる「朝花(節)」から始まるこのアルバムは、ウォン・ウィンツァンや、ゴンチチチチ松村、元LUNA SEASUGIZOなどの多彩なゲストとのコラボレーションによって彩られる。スタンダードな島唄である「豊年節」は、レゲエ・スカなアレンジが施されていて、全く新しい表情を見せる。ラストは東北地方の「音楽」を様々なスタイルで発展させ世界的に知られる、姫神とのコラボによる「六調」。島唄とブレイク・ビーツが混ざり合い掛け合って、まさに新しい「歌遊び」が繰り広げられている。

 島唄に初めて触れた人たちが、朝崎郁恵の唄で「涙している」という。「癒し」を「売り」にするスタンスははっきり言ってあまり好きではないが、朝崎郁恵さんの「唄」はそういったスタンスとは全く異質のものだと思う。それは「奄美」を体験した人かどうかを問わない、聴き手の琴線に触れる、唄の「求心力」があるからだと思う。

 奄美の集落では、家々の一年の無事を祈って行われる「八月踊り」の行事がこの時期行われる。各家庭を廻りながら夜を通して行われるこの行事のクライマックスは、「六調」。早いリズムの島唄に、老若男女を問わず踊りまくる。私もバチを握って一心不乱に太鼓を叩いた経験がある。もう十年以上参加していないけれど、来年こそは島に戻って、あのリズムの中に身を委ねたいと思う。


うたあしぃび

うたあしぃび